情報流通ルール-14/プロバイダーの責任

12/25付:インターネット上の情報流通ルールについて(報告書)-第3章 情報流通ルールの具体的な在り方(プロバイダーの責任)

3 プロバイダーの責任

(1)プロバイダーの責任範囲の明確化
  違法又は有害な情報の発信については、第一次的には発信者に責任があることはいうまでもないが、発信者の匿名性の問題や必ずしも責任ある対応を期待できないということもあって、その責任追及が常に有効であるとは限らない。他方、プロバイダーは、情報発信者に対して発信のための手段を提供しており、いったん違法又は有害な情報が発信されたことを知ったときには、発信をコントロールして当該情報の伝播を止め、被害の拡大を防止することが可能な立場にある。そこで、プロバイダーが違法又は有害な情報の発信を知ったときには、当該情報発信者に対する注意喚起、利用停止等の措置を講じるべき責任を負わせることによって、被害者救済を図り、さらに発信者や他の利用者の自覚を促すことにより、将来の違法又は有害な情報の流通の防止に寄与すべきであるとの考えがある。
  しかし、プロバイダーは、第1種電気通信事業者又は第2種電気通信事業者として通信の秘密等の電気通信事業法上の規律を受ける立場にあり、そもそも利用者のコンテントにどの程度まで関われるのかが明確ではない。
  また、利用者が発信したコンテントについて、民事・刑事法上、いかなる責任を負うのかについても確立した考えはないのが現状である。
  プロバイダーの現実の対応を見てみると、原則として利用者のコンテントには関わらないとの立場をとりつつ、法的責任を問われる可能性があることからリスクヘッジとして、あるいは社会的な非難を受けることを避ける目的で、利用者との契約約款等において、違法又は有害な情報の発信に対し、発信者に対する注意喚起(プロバイダーは、「警告」と表現することが多い)、情報の削除や利用の停止等ができる旨の規定を設けた上、これに従った対応をしているところが多い。また、利用者の立場からも、公然性を有する通信において違法又は有害な情報が流通している場合、被害者救済(被害の拡大防止)等の観点からプロバイダーが何らかの措置をとるべきであるという要望が多い(注17)。

  こうした状況を踏まえて、プロバイダーについて、利用者のコンテントに対していかなる場合にいかなる責任を負うのかをできるだけ具体的に検討する必要がある。その際、以下の点に留意すべきであると思われる。

○ プロバイダーの通信内容に対するコントロールの程度は様々であり、それにより責任の程度も異なり得ること。

○ プロバイダーに対する負担が大きくなり過ぎると、プロバイダーが過剰な抑制を行うことにより、利用者の表現の自由を萎縮させるおそれもあることから、妥当でないこと。(常時モニタリングを行って、通信内容をチェックするまでの義務を負わせることは当然不適当である。)

○ プロバイダーの責任範囲を一律に定めることは、プロバイダーの経営の自由、ひいては利用者のサービス選択の幅を狭めることとなり、インターネットのダイナミズムを害することになること。

○ メディアの特性を考慮した上で、他のメディアにおける情報発信に対する規制との調和を図ること。

○ 違法又は有害な情報の流通に対して自主的に対応したプロバイダーが、こうした情報を放置したプロバイダーに比べて、かえって重い責任を負うことのないようにすること。

   これらを踏まえて、プロバイダーの責任を検討する前に、少なくともプロバイダーには、主要当事者として、情報流通のルール形成に貢献する責務があるということは、明確にしておく必要がある。情報の自由な流通が望ましいとは言え、無秩序ではインターネット自体の進展を妨げることになりかねないからである。

   次に、プロバイダーの責任を考えるに当たっては、プロバイダーがコンテントに対するコントロールをどの程度及ぼしているかが重要な要素になってくると思われる。議論の進んでいるアメリカにおいては、名誉毀損の責任との関係で、プロバイダーは、配布者(distributor)としてコンテントが違法であることを知っていたか知るべき理由があったことが立証されたときに限って責任を負う(前述:Compuserve判決)、出版者(publisher)として高度の責任基準が適用される(前述:Prodigy判決)、キャリア(carrier)として第三者のコンテントに責任を負わない(前述:AOL判決)、等の判決が出されているが、今後の動向については揺れている。プロバイダーのサービス提供態様(インターネット及びパソコン通信)と公然性を有する通信におけるコンテントに対する責任との関係については、例えば、以下のような考え方も可能であると思われる。

[1]プロバイダーが自らのホームページ等において自らの情報発信を行っているケース情報発信者としての責任を負うのではないか(注18)。

[2]プロバイダーがサービスの一環として、各種情報サービスを提供しているケース(例:インターネットにおけるネットニュースの配信やパソコン通信サービスにおいて提供される天気情報、占いサービス等)プロバイダーのコンテントへの関わりが強く、情報発信者に準じた責任を負い、違法な情報が発信されないよう注意すべき義務があるのではないか。

[3]プロバイダーがコンテントの配置や運営方法等について管理しているケース(例:パソコン通信サービスにおいて、管理者(シスオペ等)が管理する電子会議室等(フォーラム等の他、チャット等も含まれる。))プロバイダーがコンテントをコントロールするとみると情報発信者に準じた責任を負うが、コントロールしないとみるとdistributorとしてコンテントが違法であることを知っていたか知るべきであったときに責任があるのではないか。

[4]プロバイダーがホームページサービスを提供(サーバー貸し)し、契約約款等で違法なコンテントに対する注意喚起や削除等の権利を留保しているケースコンテントが違法視されるものであることを知った場合は、約款の規定に従い何らかの必要な措置をとらない限り責任を負うのではないか。
   ただし、利用者のホームページを常時監視するなどして違法な情報発信を防止すべき義務まではないと考えられる。

[5]プロバイダーがホームページサービスを提供し、契約約款等に上記のような条項を設けず、コンテントについて関与しない立場をとっているケース不法行為責任や刑事責任との関係では、違法であることを知りつつ放置することは許されず、必要な措置をとらない限り責任を負うべきではないか。

[6]単にアクセス手段を提供しているにすぎないケース
コンテントに対するコントロールを及ぼし得ず、コンテントに責任はないのではないか。

   もっとも、上記のような考えは確立されたものではなく、また、法的責任は、個々具体的なケースごとに判断されるべきものである。今後、具体的なルール化の一環として、プロバイダーの責任の在り方を何らかの形で明確にしていく必要がある。それには、立法によるアプローチと裁判所による判断の集積にゆだねるアプローチとがある。
   仮に立法によるとした場合、考えられる内容としては、まず、違法な情報に対して必要な措置を取ることを義務づける等の作為義務規定又は努力義務規定を設けることが考えられるが(例えばドイツのテレサービス法のようなもの)、プロバイダーにとっては過大な負担となる(特に、利用者のコンテントが違法であるか否かを判断すること)との意見や、プロバイダーの過剰な反応を招き、インターネット上における表現の自由を不当に制約するおそれがあるとの指摘がなされている。
   次に、プロバイダーが自らの判断で必要な措置をとることができる旨の規定又は必要な措置をとった場合の免責規定を設けることも考えられるが(例えばアメリカのグッドサマリタン条項(前述)のようなもの)、プロバイダーによる言論選別につながるという懸念や、そのような免責規定が我が国の法制度になじむかといった問題がある。この場合には、少なくとも、各プロバイダーが過度にコントロールをすることのないよう、いかなる場合にいかなる措置をとるかをあらかじめ明示する義務を負わせるなどの方策を講じておくことが必要と考えられる。
   立法によらない場合には、違法又は有害な情報にどう対処するかは、基本的には、各プロバイダーの裁量にゆだねられ、利用者のコンテントには一切関わらないというプロバイダーが出てくることも予想される。現行の電気通信事業法を前提とする限り、このような方法もあり得るところであり、むしろ、望ましい対応であるとする見解もある。しかしながら、自己の管理下に違法な情報があることを知りつつ放置していた場合には、民事又は刑事の責任を負う可能性があることは否定できない。また、有害な情報について、何もしないことに対する社会的非難も当然予想される。さらに、前述のとおり、プロバイダーは情報流通ルールの形成に貢献する責務があることをここで再度強調しておきたい。
   プロバイダーの事業者団体である(社)テレコムサービス協会では、現在、こうした問題に対処するための自主的ガイドラインを策定中であり、利用者から申出等により違法又は有害な情報が流通していることを知ったプロバイダーは、あらかじめ定めた約款の規定に従い、発信者に対する注意喚起、利用の一時停止、削除等の必要な措置をとり得るとする方向で検討中である。
   多くのプロバイダーがこのガイドラインに従った対応をとるならば、新たな法律の規定を設けるまでもなく、同様の効果が期待できることになろう。利用者のコンテントにつき、プロバイダーがいかなる場合にいかなる責任を負うかは、我が国のみならず、諸外国でも法律を定めたドイツ等を除き、未だ確立した考えはない状況である(注19)。インターネットを高度情報通信社会における個人の基本的人権というべき「情報発信権」、「情報アクセス権」を実現する核となるメディアと位置付けた場合、できるだけ自由な情報流通を確保することが優先するというべきである。このことからすると、法律によりプロバイダーの責任を規定することについては、国内及び海外の動向を見据えつつ、なお慎重に検討すべきであり、当面は、現行法制下において、プロバイダーの自主的対応に期待していくことが適当と思われる(注20)。

(2)電気通信事業法上の問題
   プロバイダーの自主的対応に期待するにしても、電気通信事業法(以下「事業法」という。)上、検閲の禁止(第3条)、通信の秘密保護(第4条第1項)、利用の公平(第7条)等の規定との関係を整理しておく必要がある。

[1]公然性を有する通信の内容を見ることと事業法第3条及び第4条第1項
   まず、事業法第3条(旧公衆電気通信法第4条)に言う「検閲」の主体については、従来、国その他の公の機関であると解されてきた。これは、「検閲」の一般的概念に合致するものであり、それなりに理由があると思われる。
   他方、本条にいう「検閲」の主体には、私人を含めて解することができるという見解も有力となっている(もっとも、ここに私人といった場合、単なる私人による「検閲」というのは考えにくく、不適当と認める通信の発信を禁止する能力を有する者、具体的には当該通信を取り扱うプロバイダー又はこれに影響を与え得る者に限られると思われる。)。
   また、「検閲」の概念についても、「発表前(事前)の禁止」を目的としたものに限定されるという見解(最高裁昭和59年12月12日大法廷判決参照)と、「発表後(事後)の積極的な知得」を目的としたものも含むべきとする見解とがある。
   これらのうち、いずれの見解によるにせよ、事業法における「検閲」で禁止される行為とは、プロバイダーの取扱中に係る通信の内容又はそれを通じて表現される思想の内容を調査し、場合によっては不適当と認めるものの発信を禁止することであると考えられる。このうち、通信内容を調査するという点をとらえると、「検閲」は、通信の秘密侵害とほとんど同義と考えられる。したがって、公然性を有する通信においては、通信内容に秘密性はなく、その内容を見ても事業法第4条第1項の通信の秘密の侵害にならないという考えを前提とすると、こうした公然性を有する通信の内容を単に調べることをもって「検閲」というには当たらないということになる。つまりコンテントを見ることは、公然性を有する通信においては、コンテントについて秘密性がない以上、事業法第3条及び第4条第1項違反は問題とならない。これは約款の規定の有無によっても結論は変わらないと解される。

[2]公然性を有する通信の発信者への注意喚起と事業法第3条及び第4条第1項
   次に、発信者への注意喚起についてであるが、発信者の任意の措置を促すものにとどまる限り、事業法第3条及び第4条第1項違反とはならず、約款の規定の有無にかかわらず許されると解される。注意喚起をするには発信者を特定することが必要であるけれども、当該通信内容から連絡先(e-mailアドレス等)が明らであればもちろん、当該通信に含まれる情報(URL等)とプロバイダーが把握している契約者情報とを照らし合わせることにより発信者の連絡先を知得したとしても、プライバシー上の配慮は必要であるが、「通信の秘密」侵害とはいえない。
   これに対し、通信ログを調べるなどして発信者を探知することは、「通信の秘密」との関係で問題が生じ得るが、契約約款等で違法又は有害な情報発信に対する利用制限が規定されている場合は、利用者もプロバイダーとの関係では発信元を探知されることがあり得ることを承諾している(その限度で「通信の秘密」を放棄している。)との考えがある。
   また、契約約款にそのような規定がない場合であっても、通信内容が公開され秘密性がないような公然性を有する通信における発信者情報は、もはや通信の秘密として保護するような実質的理由は弱いと解されることから、それと被害者救済との利益衡量により、プロバイダーが違法又は有害な情報の発信者を探知することも許される余地があるとの考えもある。こうして、プロバイダーが適法に発信者の情報を知得した場合は、これを漏示しないという意味での守秘義務が問題となるところ、この場合は発信者本人に通知するだけであるから「通信の秘密」侵害とはならないと考えられる。
   また、「検閲」との関係では、任意の措置を促すに過ぎない場合は、発信の禁止に当たらず、許されると解される。

[3]公然性を有する通信における情報の削除、利用停止及び契約解除と事業法第3条、第4条第1項、第7条及び第34条
   削除・利用停止・契約解除については、まず「検閲」禁止との関係が問題となる。この点、事業法第3条にいう「検閲」の主体は公権力に限られるとの見解に立った場合は、問題はないが、これにプロバイダーも含まれるとの見解に立つと、プロバイダーがこうした措置をとることは、原則としてできないという結論になりそうである。しかし、プロバイダーがこうした措置を全くとり得ないという結論が妥当とは思われない。そこで、この点をクリアするため、次のような考えが主張されている。
   その第一は、「検閲」禁止は1対1の通信を前提とするものであり、公然性を有する通信においてはその適用はないという考えである。しかし、これに対しては、通信内容を調査することが禁止されないという意味では妥当するとしても、内容に秘密性がないからといって、不適当と判断した通信の発信を禁止してよいということにはならないのではないかとの疑問がある。
   第二は、プロバイダーも、自己の表現の自由を有しており、公然性を有する通信が表現手段として重要な役割を果たしていることにかんがみると、少なくとも他者による違法又は有害な表現については、その発信をコントロールする権利を留保することができると解するのが相当であり、こうした権利を留保した場合には、これが「検閲」の禁止に優越するという考えである。
   いずれにしても、削除・利用停止・契約解除といった措置は、基本的には契約約款等に定めておかなければとれないが、内容が明らかに違法であり放置しておけば自ら法的責任を問われる可能性がある場合や、権利が侵害されている者の救済のため緊急の必要性がある場合には、許される余地があると思われる。
   次に、事業法第7条の利用の公平との関係が問題となるが、公然性を有する通信においては、プロバイダーは上記のような権利を留保し得ると解されることから、違法又は有害な情報の発信を禁止し、これに対する措置をとったとしても、合理的理由に基づく取扱いの区別として許されると考えられる。
   なお、第1種電気通信事業者(以下「第1種事業者」という。)については、事業法第34条により役務提供義務が課されており(同法第101条に罰則がある。)、通信内容を理由に利用の停止や契約の解除等の措置をとることができるかについては、疑義もある。しかし、第2種電気通信事業者と同様の役務を提供しているような場合に、第1種事業者であるというだけの理由で、いかなる情報の発信をも許容しなければならないという意味での提供義務が生ずると解するのは不合理である。提供義務の趣旨が、電気通信設備を保有している第1種事業者が役務の提供を拒否した場合には、当該利用者への影響が極めて大きくなることからきているとすると、第1種事業者の提供する役務が基本的な役務でない場合等には、提供義務も緩和されると解してよいと考えられる。したがって、違法又は有害な情報の発信を理由に役務提供を制限することも、同法第34条の「正当な理由」に該当し得ると考えられる。

(3)1対1の通信の取扱い
   インターネット上の情報流通の問題には、公然性を有する通信におけるものだけでなく、電子メール等の1対1型の通信におけるものも含まれている(注21)。プロバイダーのもとには、こうした電子メールに関する苦情や相談も寄せられており、苦情申立者からメールの転送を受けるなどしてその内容を知り得る場合がある。この場合には、通信の一方当事者の承諾がある以上、通信の秘密侵害という問題は生じないと解される。もちろん、受信したメールをその内容にかかわらず第三者に公開することは、当該メールの受信者の発信者に対する関係でプライバシー侵害が問題となり得るが、少なくとも、発信者のメールの内容により権利の侵害を受けた受信者が、その救済を求めてプロバイダーに知らせるような場合は、発信者としてもそうした開示すら許されないという意味でのプライバシーを期待できないということができる。
   また、その上で、プロバイダーが当該情報の発信者に対して注意喚起を行うことも、公然性を有する通信の場合と同様、許される場合があると考えられる(ただし、発信者が自己の契約者以外の場合は、発信者を探知することには限界がある)。問題は、それにもかかわらず発信者が違法情報の発信を止めない場合等に、利用停止や契約解除等の措置を行うことが許されるかであるが、原則としては、許されないという結論になると思われる。というのは、公然性を有する通信の場合とは異なり、1対1の通信においては、特定者間での通信である以上、プロバイダーが関わるべき理由は基本的にはないからである。ただし、1対1の通信の形をとっていても、故意に大量のメールを送りつけるような者の発信や受信を制限することは、事業の円滑な運営を確保するために許される余地があろうし、脅迫に当たるようなメールや他人になりすましてその名誉を侵害するようなメールを執拗に送信する者が特定できた場合には、正当防衛又は緊急避難等の観点から、注意喚起を発したり、又は利用を一時停止する等の措置をとり得る場合もあると考えられる。

(4)大学・企業の管理者の責任
   大学や企業のネットワークの管理者は電気通信事業者ではないが、技術的、機能的には、プロバイダーと同様の役割を果たしている。ただし、これらのネットワークは、独自の目的に従って設置・運営されており、事業として他人の通信の媒介ないしは他人の通信の用に供しているプロバイダーとは別の考慮が必要となる。
   例えば、大学のネットワークの設置目的は、教育や研究等にあると解されるから、学生や教職員の利用もそうした目的に応じて制限され得る(ただし、研究活動には学問の自由(憲法23条)が認められていることに留意すべきである)。また、企業のネットワークは、その企業活動のために使用されることを当然の前提としているから、通常、従業員はその目的に反した使用は許されないと思われる。
   いずれの場合も、ネットワークの管理者としては、学生や従業員の利用に対し、利用方法や目的等をあらかじめ明確にし、適正に管理すべきであると考えられる。また、違法又は有害な情報の流通への対処やネットワーク利用者(学生や雇用者等)に対する啓発活動等、プロバイダーの行動規範に準じた対応が望まれる。