「組織犯罪対策」に反対する刑法学者の声明


「組織犯罪対策」に反対する刑法学者の声明

1996年10月18日、長尾立子法務大臣(当時)は、「組織的な犯罪」に対処するための「刑事の実体法及び手続法」の「整備要綱の骨子」を示すよう法制審議会に諮問した。諮問内容は、「組織的な犯罪に関する刑の加重等」、「犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰」、「没収及び追徴の拡大」、令状による盗聴(「令状による通信の傍受」)、「証人等の保護」、「没収に関する手続等の特例」の6点である。11月には、法務省作成の「事務局試案」(以下、参考試案という)が提出され、現在、法制審議会刑事法部会で審議中である。 今回の諮問は、オウム真理教団による一連のテロ行為、寡占化・大規模化する暴力団による不正な経済活動や暴力事犯、悪徳商法を始めとする企業犯罪の増加などを背景にするものと説明されているが、参考試案の内容は「組織犯罪対策」の枠から大きく外れ、憲法、刑法及び刑事訴訟法の大原則を逸脱しており、われわれは黙過することができない。
 第1に、「組織的な犯罪」という不明確かつ無限定な概念を立てて刑の加重類型を創設することには疑問がある。「組織的な犯罪」とは、参考試案によれば、常習賭博、賭博開帳図利、殺人、逮捕・監禁、強要、身代金目的略取、信用毀損、業務妨害、詐欺、恐喝、建造物損壊の11の罪(「別表の罪」)につき、
(1)犯罪を実行するための法人その他の団体(以下、「団体」という)を作り実行したもの、(2)「団体」内部の「組織」により実行したもの、
(3)(賭博と詐欺を除く8つの罪につき)「団体」に「不正な権益」を得させ又は「不正な権益」を維持もしくは拡大する目的で実行したもの、とされている。
 しかし、そもそも「犯行を実行するための法人」なるものが法的にありうるのか、「団体」とは何か(グループや集団などの他の結合体とどこが違うのか、「組織」とどう異なるのか、現行法の共犯との関係はどうなるのか等)、「不正な権益」とは何かなどの点が明らかでない。仮にこれを定義するとしても、その内容は不確定とならざるをえず、罪刑法定主義の要諦である明確性の原則に反することになるだろう。また、「団体」との関連性を理由に刑を加重するのは根拠が薄いばかりか、個人責任の原則に反する。さらに、(3)では主体が「団体」の構成員に限られてさえいない。
 しかも、「別表の罪」に列挙された各犯罪の法定刑の上限や下限が現在不適切であるため量刑上支障をきたしている事実は統計上窺えず、加重の必要があるとは考えられない。このことと、後述のように盗聴の対象が「組織的な犯罪」に限定されず一般犯罪にも拡げられていることとを考え併せると、「組織的な犯罪の刑の加重等」の提案は、今回の立法提案全体に「組織的な犯罪」の対策であるかの如き体裁をとらせるための名目的なものであるとみざるをえない。
 第2に、没収・追徴の対象を犯罪収益に由来する財産やそれとの混合財産にも及ぼし、かつ没収・追徴の起訴前保全手続を新設する点は、犯罪収益等の隠匿・収受の処罰とともに、麻薬特例法の例外的な規定を一般犯罪にまで及ぼそうとするものである。 しかし、麻薬特例法の場合には、明確性の原則、均衡の原則、刑罰一身性の原則、および無罪推定の原則に反するという多くの反対を押し切って、事犯の特殊性に鑑み限定的、例外的に認められたものであり、その旨の国会の付帯決議が存在する。それを一般犯罪に拡大することは、付帯決議に反するだけでなく、右に掲げた刑法および刑事訴訟法の原則を大きく逸脱するものである。
 また、「犯罪の収益等による事業経営の支配等の処罰」は、「犯罪の収益等」の範囲が曖昧である点で明確性の原則に反するだけでなく、麻薬特例法による処罰範囲を一層拡大するものであって著しく妥当性を欠く。
 第3に、最も最大の問題は盗聴である。そもそも盗聴は憲法の保障するプライバシーの権利や通信の秘密をはなはだしく侵害する危険な本質的特性をもつ処分であって、手続的適正さを確保することが極めて難しいものである。そのため、われわれ刑法学者はこれ迄その立法化に対して極めて慎重な態度をとってきた。今回の参考試案は一見これらの憲法上の疑義をクリアするための工夫を凝らしているように見えるが、憲法に適合するものになっているとは到底いい難い。
 まず、盗聴の対象となる通信が無限定であり、特定性を要求する憲法と適合しないことである。参考試案は、令状記載の盗聴すべき通信に該当するかどうかを判断するためのいわば予備的な盗聴を行うことを認め、これによって特定性の要求との調和を図ろうとするかのようである。しかし、予備的とはいえ無限定の盗聴を認めることは結局のところ無限定の盗聴一般を認めることに他ならず、憲法の特定性の要求と抵触する。のみならず、それは犯罪と無関係な通信の盗聴を正面から認めることであり、広く国民のプライバシーの権利や通信の秘密を侵害するばかりでなく、表現の自由を萎縮させる効果をもたらす。このことは、盗聴の対象犯罪が参考試案において薬物事犯や誘拐だけでなく、殺人、放火、強盗致死、強盗強姦、同致死、逮捕・監禁罪など市民の身近で起こる一般犯罪に拡張されていることからみても、決して杞憂ではない。しかも驚くべきことに、参考試案は、盗聴の過程で令状記載の犯罪以外の犯罪に関わると認められる通信が行われた場合にその通信を盗聴することも認めている。これは別件盗聴を認めることであり、盗聴の無限定性をいっそう拡大するものである。
 また、令状発付の時点では存在していない将来の犯罪に関連する通信を盗聴の対象としていることも重大である。参考試案は、過去の犯罪の捜査のためだけでなく、すでに行われた犯罪がさらに継続して行われると疑われる場合や、犯罪がこれから新たに行われると疑われる場合についても、一定の条件のもとで盗聴を認めている。しかし、これは将来の危険を防除するための行政警察活動としての盗聴を司法警察活動たる犯罪捜査の枠内に取り込むことであり、捜査の概念と抵触し、恐るべき権限拡大を招く。
 次に、盗聴が憲法の令状主義の趣旨と抵触することである。そもそも盗聴によって侵害されるプライバシーや通信の秘密の権利主体は通信の当事者であるが、盗聴の性質上、当事者への令状呈示は考える余地がなく、現に参考試案はその旨の規定を欠いている。これは、令状呈示を要請する令状主義の趣旨に背く疑いがある。のみならず、参考試案は、多数人が関わる通信について原則として10日にわたる盗聴を1通の令状で認めているが、これは、1回の権利侵害ごとに各別の令状を要求する憲法に違反する。
 さらに、参考試案は、不服申立や違法盗聴の事後排除などの「事後措置」を設けることにより、盗聴に対する憲法上の疑義をクリアしようとしている。しかし、「事後措置」の内容は、不服申立の前提となる盗聴したことの事後通知を通信当事者の一方に行えば足りるとし、しかも盗聴手続の違法が重大でない場合には事後排除を限定するなど、極めて不十分なものであり、憲法の疑義を払拭できるようなものではない。
 もともと、わが国は諸外国とは異なり、盗聴を認めてこなかった。それは、戦前・戦中における捜査官憲による深刻な基本的人権の侵害に対する反省のうえにたつ賢明な判断であった。この判断は、現在もなお尊重されなければならない。もし盗聴が立法化されるならば、捜査実務の現状からみて深刻な人権侵害が生ずることは必至であり、市民社会に深刻な影響を与えるからである。
 以上の理由から、われわれ刑法学者は、今回の「組織犯罪対策」の立法提案に対して強い反対の意思を表明する。
 なお、最近、法務省は、一部の大学を除く法学系の学部に対して参考試案を付した文書を送付し、学界から「意見等」を聴取するポーズを示している。しかし、その内容が上述のような重大な疑義をもつものであるだけに書面による個別的意見聴取を行うだけでは不十分であり、立法資料を全面的に開示するとともに、全国の刑法学者から学会での幅広い討論の成果を含め多様な意見を汲み尽くして立法作業に反映させるよう、公正かつ慎重な手続をとるべきである。また市民からも広く意見を聴く手続も踏むべきである。
 右、声明する。
 1996年12月
声明賛同署名発起人
浅田和茂(大阪市立大学)
小田中聡樹(東北大学)
川崎英明(東北大学)
高田昭正(大阪市立大学)
村井邦敏(一橋大学)


Webショップのプライバシーに対する情報掲載
インターネットを活用した収入額別の割合
インターネット・ショップの継続年数と全体の割合
NCLのプライバシー問題報告
CSLRが公表した日本人のオンライン・プライバシー楽観主義
米国のNational Drug Control Strategy 1999が発表したコカインの流通
ペルーの1995年と1998年のコカイン生産地の変化
米国のNational Drug Control Strategy 1999が発表したヘロインの流通
米国における1978年から1996年までの麻薬の種類と変化
米国の14〜17歳の子供が大人向けサイトを訪ねる割合
IPSOS Reidの世界のオンライン詐欺情報
the Anti-dragが麻薬として取締をしている範囲
Harris Interactiveが公開したプライバシーとプロテクション情報
GAOが2001年8月1日に発表したAnti-Drug Media Campaign
Bio-Terry & MASCAPが公開したバイオケミカル・テロの歴史
GAOが公開した生物化学兵器テロ情報
GAOが公開した化学及び生物化学兵器の状況
Internet Gambling: An Overview of the Issues. GAO-03-89
第58回国連総会第3委員会 議題117(b)及び議題117(c)関する原口国連常駐代表演説(仮訳)
世界人権宣言の55周年日本政府国連代表部小澤敏朗大使ステートメント
Illustrirte Zeitung1849年7月7日にあるハンブルグのカジノ風景
警察庁が2004年10月26日に公開した、組織犯罪対策要綱(依命通達)

「組織犯罪対策」立法に反対する刑法学者の声明
フィルタリング・システム
組織的な犯罪に対処するための刑事法の整備について
組織犯罪防止のための法制審議会案
ネットワーク上のプライバシー侵害問題
KES
インターネット上のワイセツ画像摘発
グラスルーツ・ネットワーク
ネオ・ラッダイト運動
盗聴法案
クリッパー・チップ計画
LEAF
Key Escrow
Vチップ
MISTY
DES(Data Encryption Standard)
サイファー・パンク
ネット・ヘイト
鍵供託暗号
秘密情報分散技術
インターネット暴動
連想メモリ
電子ネットワーク協議会
電子ネットワーク協議会のルール&マナー集
倫理問題に係る自主ガイドライン
電子ネットワーク協議会の倫理綱領
倫理綱領とルール&マナー集の要点
EFF
サイバーポン
インターネット
ネチズン
ネット世話役
video vigilante
電子自警団
ブラインド・ファキシング
サイベリア
MUD(Multi User Dungeons)
メガ・キャリア
米国内の通信改革法案
NetNanny
ネチケット
サイバースペース独立宣言
倫理綱領抗議文
「『倫理綱領』に抗議します」
ダイレクト電子メール
ドイツ新テレコミュニケーション法案
MY-ELLTY
電子取引法制に関する研究会
黒いリボン
SafeSurf
SurfWatch
コンピュータ不正アクセス対策基準
コンピュータ緊急対応センター
サイバー・テロ
マッド・サイエンティスト
EPIC(Electronic Privacy Information Center)
カオスインフォガード
フィルタリング機能の検討案
PICS(the Platform for Internet Content Selection)
Safety-Net
RSACi
性とメディア
Cyber Patrol Coporate
自由の疫病
WIPO
WIPOの課題リスト
バーチャル・アイデンティティ
バーチャル・セックス
仮想現実タレント
デザイナー・リアリティ
「組織犯罪対策」に反対する刑法学者の声明
ネットパス
CA
MULTI
暗号技術
メリーランド州のネットハラスメント防止法案
Telecommunications Act of 1996
ワイヤー・タップ
「大阪わいせつリンク」事件について
リンク 猥褻物陳列罪 プロバイダの責任
国際暗号協定
CDA
サイバー法
OECDの暗号政策ガイドライン
Manhattan Cyber Project
個人情報の保護に関するガイドライン
Kids GoGoGo
映画Ratingシステム
インターネット風俗画面研究会
クリントン大統領(当時)のワイセツ情報規制策
暴力ゲーム
CESA倫理規定
フィルタリング機能の構築
京都・わいせつ画像データ裁判
Privacy Assured
FBI長官の不安と願望
NCSA(National Computer Security Association)
情報システム安全対策指針
日本国憲法とマルチメディア
不健全指定を受けた出版物
インターネットの危機
インターネット上の情報流通ルール
情報流通ルール-1/はじめに
情報流通ルール-2/必要性
情報流通ルール-3/議論の状況
情報流通ルール-4/イギリス
情報流通ルール-5/ドイツ
情報流通ルール-6/フランス
情報流通ルール-7/オーストラリア
情報流通ルール-8/シンガポール
情報流通ルール-9/EU
情報流通ルール-10/OECD
情報流通ルール-11/APEC
情報流通ルール-12/自己責任の原則
情報流通ルール-13/情報発信への対応
情報流通ルール-14/プロバイダーの責任
情報流通ルール-15/発信者情報の開示
情報流通ルール-16/受信者の選択を可能とする技術的手段
情報流通ルール-17/事後的措置
情報流通ルール-18/脚注1〜25
情報流通ルール-19/まとめ
情報流通ルールに関する意見募集(終了)
情報の自由化宣言
レイティング・データベースの稼働
レイティング・データを知るための方法
風営法改正
米国の過激な学校のフィルタリング規制法案
静岡県インターネットプロバイダー生活安全協議会
ネットワーク犯罪防止法
FCCのVチップ規則
プライバシーマーク制度
ネットに必要な10の法案
ebase
FTCのインターネット・プライバシーに関する提案
日本ジャーナリスト会議の盗聴法反対声明-1
日本ジャーナリスト会議の盗聴法反対声明-2
盗聴法案の国会審議入りに抗議します
1998年5月14日のゴア副大統領(当時)の講演
データベース保護法案
国会の組織犯罪対策関連3法案の趣旨説明と質疑-1
NetAction
1998年6月4日にFTCが公開したプライバシーの報告書
スウェーデンのElectronic Bulletin Boards
Online Privacy Alliance
Digital Kids
コンテンツのタブー
Emily Postal's Netiquette Q & A
国際ジャーナリストの仕事と技術
ディープ・クラック
Twinkle
EUが1999年3月15日に発表した盗聴規制ドラフト
オーストラリア1999年放送サービス修正法案
盗聴法という言葉
Digital Pearl Harbor
seven dirty words
統計関連情報があるURL
CAPA(Child Abduction Prevention Act)
マニフェスト
Operation Peer Pressure
誰が本当のビッグ・ブラザーか?
Def Tech
Def Tech
the Communications Opportunity, Promotion, and Enhancement Act of 2006
暗号の2010年問題